この記事の要点
食品ECの市場が好調であることと、自社の売上が好調であることは、まったく別の現象です。経済産業省『令和6年度 電子商取引に関する市場調査』(2025年)によれば、2024年の食品・飲料・酒類のEC市場規模は3兆1,163億円(前年比6.36%増)ですが、EC化率は4.52%に過ぎません。市場が伸びた分の売上には必ず宛先があります。その宛先になっていなければ、市場の好調は自社に反映されません。
「うちの商品は良いのに、なぜ売れないのか」
画面の前でその問いを繰り返している担当者が、今この記事を読んでいるとしたら。私はその問いに、少し別の角度から答えを出したいと思っています。
食品ECが盛り上がっているという雰囲気は、確かに存在します。SNSで話題になる食品ブランド、急成長するD2C企業のニュース。それを見るたびに「なぜ自社だけが取り残されているのか」という焦りが募る。その感覚は、数字の読み方を変えると、まったく違う景色に見えてきます。
目次
食品ECが「好調」と言われる根拠—市場規模と成長率の読み方

2024年の食品・飲料・酒類EC市場は3兆1,163億円、前年比6.36%増
経済産業省『令和6年度 電子商取引に関する市場調査』(2025年公表)によれば、2024年の食品・飲料・酒類のBtoC-EC市場規模は3兆1,163億円、前年比6.36%増を記録しています。
この数字の意味を正確に読むためには、比較対象が必要です。同調査における物販系BtoC-EC市場全体の成長率は3.70%。食品の6.36%という成長率は、物販全体の平均を大きく上回っています。
「食品ECが好調」という言い方は、この数字が根拠になっています。絶対値としての規模も、成長率という相対的な位置も、どちらを見ても食品は際立っています。ここまでは事実として押さえておいてください。
物販系カテゴリの中で最大規模—食品が占める位置
同調査で物販系の主要カテゴリを並べると、食品・飲料・酒類は3兆1,163億円で最大規模のカテゴリです。
| カテゴリ | 市場規模(前年比) | EC化率 |
|---|---|---|
| 食品、飲料、酒類 | 3兆1,163億円(+6.36%) | 4.52% |
| 生活家電、AV機器、PC・周辺機器等 | 2兆7,443億円(+2.26%) | 43.03% |
| 衣類・服装雑貨等 | 2兆7,980億円(+4.74%) | 23.38% |
| 生活雑貨、家具、インテリア | 2兆5,616億円(+3.62%) | 32.58% |
| 書籍、映像・音楽ソフト | 1兆8,708億円(▲0.84%) | 56.45% |
| 化粧品、医薬品 | 1兆150億円(+4.54%) | 8.82% |
(出典:経済産業省『令和6年度 電子商取引に関する市場調査』2025年)
規模も成長率も良い。確かに食品ECは「好調」に見えます。しかしこの表を、もう少し違う角度から見てほしいのです。右端の列に注目してください。
EC化率4.52%が意味する現実—95%はまだネットで買われていない

衣類23.38%、生活家電43.03%との桁違いの差
上の表のEC化率の列を、もう一度見てください。
- 生活家電:43.03%
- 衣類:23.38%
- 生活雑貨:32.58%
- 食品:4.52%
これが何を意味するかというと、衣類を買う人の約4人に1人はネットで買っています。生活家電に至っては約2人に1人です。ところが食品をネットで買っている人は、全体の4.52%に過ぎない。
言い換えれば、食品を買う人の約95%は、今もリアルの店舗で買っています。
「好調な食品EC市場」の絶対的な規模は確かに大きい。しかし食品という商品カテゴリ全体で見れば、ネット購買はまだ例外的な行動です。「市場が大きい」と「ネット購買が浸透している」は、全然別のことを示しています。
「市場が伸びている」と「自社が伸びている」は別の現象
ここで一つ、読者の視点を転換させてほしい問いがあります。
「市場規模が6.36%伸びた。では、その伸び分の売上はどこに入ったのか?」
市場が伸びるとは、どこかの誰かが新たに食品をネットで買い始めたということです。その売上は必ずどこかの店・ブランドに入っています。3兆1,163億円という数字は、日本中の食品EC事業者に分配されたプールです。
市場全体が拡大しても、そのプールから自社が取れているかどうかは、まったく別の話です。市場が伸びた年に自社の売上も伸びたとしたら、それは「市場の成長に乗れた」ケースかもしれないし、単に「市場全体が膨らんだだけで、自社のシェアは変わっていない」ケースかもしれない。
この区別が、戦略を立てる上で決定的に重要です。
市場が伸びた分の売上はどこに入ったのか—「好調の宛先」を見つける
EC化率が0.23ポイント上昇した意味—新しく買い始めた人の売上
経済産業省の同調査によれば、食品のEC化率は2023年の4.29%から2024年の4.52%へ、0.23ポイント上昇しています。
この0.23ポイントという数字は、「2023年には食品をネットで買っていなかったが、2024年に初めて買い始めた層の規模」を反映しています。市場全体の成長(6.36%)の一部はこの新規参入層によるものです。
重要なのは、この新しく買い始めた人たちの購買先が必ず存在するという事実です。彼らは何かのきっかけで、何かのブランドから食品をネットで買い始めた。その「何かのブランド」が自社であれば、自社は「好調の宛先」になれています。そうでなければ、市場が伸びても自社の売上には反映されません。
私がこの視点を大切にするのは、多くの事業者が「市場の数字」と「自社の数字」を混同した戦略を立てていることを、現場で繰り返し見てきたからです。マクロの成長を根拠に「食品ECは伸びる市場だから投資しよう」という判断は間違っていない。しかし、その投資が「好調の宛先」になるための設計になっているかどうか、という問いは別に立てる必要があります。
宛先になる条件—「この店でネットで買う理由」が具体的にあること
「好調の宛先」になるために何が必要か。
「買う理由を作る」という発想は、実は二番手の考え方だと私は思っています。より根本的なのは、「買わない理由を1つ消す」という発想です。
EC化率4.52%の逆から読むと、95%以上の人が食品をネットで買っていない。その人たちに共通しているのは、何かしらの「買わない理由」が残っているということです。その理由を1つ消すことができれば、その人は新しく「食品をネットで買う人」になります。それが、0.23ポイントのEC化率上昇を生み出す実体です。
書籍との比較から学ぶ—市場が縮んでもEC化率が上がる理由
書籍・映像・音楽ソフトはEC化率56.45%だが市場規模は前年比▲0.84%
上の比較表の中で、一つ際立っている行があります。書籍・映像・音楽ソフトです。
経済産業省『令和6年度 電子商取引に関する市場調査』(2025年)によれば:
- EC化率:56.45%(2023年:53.45%)
- 市場規模:1兆8,708億円(前年比▲0.84%)
EC化率は53.45%から56.45%へと3ポイント上昇しているのに、市場規模は前年より縮んでいます。
これが何を示しているか。書籍や音楽ソフトは「ネットで買う人の割合」は増えているが、「市場全体の規模(買われている量・金額)」は減っている。EC化率が上がることと、市場が成長することは、まったく別の現象です。
「EC化率が上がっています」と「市場が好調です」は、同じ意味ではない。この区別を持たずに戦略を立てると、見ているものが違う方向を向きます。
食品が「本当に好調」な理由—市場規模とEC化率の両方が上がっている
この文脈で食品を見直すと、その特殊性が際立ちます。
2024年の食品・飲料・酒類は:
- 市場規模:前年比6.36%増(プラス成長)
- EC化率:4.29%→4.52%(プラス変化)
市場全体として買われている量・金額が増えつつ、ネットで買う人の割合も増えている。書籍のように「実店舗からネットへ移動しているだけ」ではなく、「市場が膨らみながら、ネットの比率も上がっている」という構造です。
これが食品ECを「本当に好調」と言える根拠です。そしてこの成長構造だからこそ、「好調の宛先」になれるかどうかが、事業者にとって切実な問いになります。
食品をネットで買わない理由—買わない理由を消すことが先
EC化率4.52%が言っていること—「95%はまだネットで買われていない」
EC化率4.52%という数字は、「食品EC市場は伸びている」というポジティブな文脈で語られることが多い。しかし逆から読めば、食品購買全体の95%以上は、今もネット以外のチャネルで行われているということです。
つまり大多数の人には、「食品をネットで買わない理由」がまだ残っている。
「買う理由を作る」というアプローチは、この障壁を無視して「うちの商品の良さを伝えれば買ってもらえる」という前提に立っています。しかし、そもそも食品をネットで買うという行動自体に抵抗感がある人に、商品の良さを伝えても購買は起きません。
先に消すべきは「この商品を選ぶ理由がない」ではなく、「ネットで食品を買わない理由」です。
買わない理由の例—鮮度・送料・配送日・量・リピート性
食品をネットで買わない理由を、読者の実感に沿って整理すると、おおむね次のようなものが挙げられます:
- 鮮度・品質の不安:届くまでの状態が分からない、写真と実物が違うかもしれない
- 送料による価格上昇:近所のスーパーで買うより実質的に高くなる
- 配送日の制約:欲しいときにすぐ届かない、日程を合わせなければならない
- 量・大きさの不確実性:写真だけでは実際のサイズ感がつかめない
- 一度きりで終わる購買体験:試したが、次に買う理由・きっかけが生まれない
これらはどれも「商品の良し悪し」とは独立した障壁です。どれほど良い商品であっても、これらの障壁が残っていれば、2回目の購買は起きにくい。
ECサイトやLPの設計で変えられるのは、この障壁の高さです。送料を見えやすくする。商品の実寸を伝える画像を使う。定期購入の仕組みを分かりやすく見せる。これらは「デザインの問題」ではなく「買わない理由を消す問題」として設計されなければ、本質的な改善にはなりません。
EC化率を上げるより前に確認すべきこと—自社の立ち位置を知る

市場の成長に乗っているのか、市場シェアを奪っているのか
自社の売上が伸びていたとしても、それが何によって伸びているのかを区別することは、次の打ち手を選ぶ上で重要です。
- パターンA:市場全体が成長しているため、特に何もしなくても売上が増えた
- パターンB:競合から顧客を奪い、市場成長以上に伸びた
- パターンC:市場は成長しているが、自社への流入がなく横ばいか微減
パターンAは、市場が縮み始めたとき一気に苦しくなります。パターンBは持続性のある成長です。パターンCは、今まさに「食品ECが好調なのに自社が伸びない」という状況です。
自社がどのパターンにいるかを確認するには、市場全体のEC化率の推移(2023年4.29%→2024年4.52%)と自社の指標の動きを重ねて見ることが一つの方法です。市場の成長率を上回って伸びているなら、競合から顧客を獲得している可能性が高い。市場の成長率と同程度であれば、市場の波に乗っているだけかもしれません。
この区別がなければ、「何に投資するか」の判断が曖昧なまま広告費だけが膨らんでいきます。
「買わない理由」を消すための具体的な施策—WEBデザイン・LP制作の役割
「買わない理由を消す」という観点でECサイトやLPを見直すと、改善のポイントが変わります。
「デザインをきれいにする」ではなく、「この画面のどこが、どの『買わない理由』を生み出しているか」を診断する。その上で設計を変える。この順番が逆になっている事業者は、実は少なくありません。
具体的には次のような問いを立てることができます:
- 鮮度・品質の不安に対して:商品の状態を具体的に伝えるビジュアルと言葉があるか
- 送料への不満に対して:送料込みの価格を分かりやすく見せているか、定期購入による送料優遇を伝えているか
- 一度きりで終わる問題に対して:リピートのきっかけ(定期購入・次回クーポン・リマインド導線)が設計されているか
- 量・大きさの不確実性に対して:実寸感を伝える比較画像・動画があるか
これらは「LP制作の話」として括られがちですが、実態は「集客とその後の行動設計の話」です。広告でどれだけ流入を作っても、このページで「買わない理由」が残っていれば、そのまま離脱します。広告費をかけても費用対効果が見えない状況の多くは、流入の量ではなく、ページ上での離脱の問題です。
WEBデザイン・LP制作で変わる、食品ECの見え方
発注側・運用側の経験から見える、食品EC事業者の実際の課題
ECサイトやLPを「作る側」の経験だけで設計すると、陥りやすい落とし穴があります。
見た目の完成度が高くなる一方で、「売る側が本当に伝えたいこと」と「買う側が知りたいこと」のズレが埋まらないまま公開される。制作物としての品質と、ビジネス上の成果が直結しないケースです。
この問題を解決するためには、「作る」経験だけでなく、「EC事業者として発注し、売上の責任を持つ」経験が必要です。商品の良さをどう言語化するか、どの情報が購買判断に影響するか、どの導線が離脱を生むかは、実際に売上数字と向き合った経験の中から見えてくるものです。
私がWeb制作の現場で大切にしているのは、「このデザインは美しいか」ではなく、「このページで、どの『買わない理由』が消えるか」という問いです。その問いを持つためには、運用側・発注側の視点が不可欠です。
改善の焦点は「デザイン」ではなく「集客導線の設計」にある
CVRが動いた事例を振り返ると、変えたのはデザインそのものではなく、次のような要素でした:
- 伝えるべき情報の順番:読者が購買判断をする上で必要な情報を、どの順序で見せるか
- オファーの可視化:「なぜ今、ここで買うのか」の理由が、ページ上で明確に見えているか
- 行動導線の設計:購入ボタンの位置・文言・その前後の文脈が、「次の行動」へ自然につながっているか
これらはグラフィックの問題ではなく、コミュニケーション設計の問題です。「デザインを直した」という感覚は薄いかもしれないが、事業の数字が変わる。そういう改善が、食品EC事業者には最も必要とされていると、私は考えています。
食品ECが好調な市場でありながら自社の売上が伸びていないとすれば、その差は商品力にではなく、Web上でのコミュニケーション設計に潜んでいることが多いです。「市場の成長に乗る」ために投資するなら、広告の量を増やす前に、ページ上の「買わない理由」を1つ消すことの方が、先決かもしれません。
食品ECについて、よくある質問
Q. 食品ECの市場が好調なのに、自社の売上が伸びていない理由は何ですか?
A. 市場規模の成長と自社の売上成長は別のことです。市場が伸びた分の売上には必ず宛先があり、その宛先になっていなければ、市場の好調は自社に反映されません。経済産業省『令和6年度 電子商取引に関する市場調査』(2025年)によれば、EC化率4.52%が意味するのは「95%以上はまだネットで買われていない」ということ。つまり多くの人には「ネットで食品を買わない理由」がまだ残っており、その理由を1つ消すことが、市場の成長に乗るための第一歩になります。
Q. EC化率が上がることと、市場が好調であることは本当に別なのですか?
A. はい。書籍・映像・音楽ソフトの例を見ると、EC化率は56.45%(2023年53.45%から上昇)ですが、市場規模は前年比▲0.84%で縮んでいます。「ネットに移った割合は増えているが、市場全体は縮んでいる」という状況です。食品は市場規模(6.36%増)とEC化率(4.29%→4.52%)の両方が上昇している数少ないカテゴリであり、これが「本当に好調」と言える根拠です(出典:経済産業省『令和6年度 電子商取引に関する市場調査』2025年)。
Q. 食品をネットで買わない理由は、どのようなものが考えられますか?
A. 鮮度・品質が届くまで分からないこと、送料を足すと近所で買うより高くなること、配送日を自分で決められないこと、量や大きさが写真だけでは分からないこと、一度きりで終わり次に買う理由がないことなどが挙げられます。これらの「買わない理由」を1つ消すことが、自社が市場の成長に乗るための戦略になります。
Q. 自社が「好調の宛先」になっているかどうかは、どうやって確認すればよいですか?
A. 市場のEC化率上昇分(0.23ポイント)が自社に入っているかどうかを確認することが一つの方法です。自社の売上成長が「市場全体の成長に乗っているだけ」なのか「競合から顧客を獲得しているのか」を区別することも重要です。自社のEC化率の推移、新規顧客の獲得数、リピート購買率などを、市場全体のトレンドと比較することが判断の材料になります。
Q. 広告費をかけているのにCVRが上がらないとき、最初に見直すべきことは何ですか?
A. 流入の量を増やす前に、ページ上の「買わない理由」を確認することが先決です。送料・鮮度・量感・リピート導線など、ページ上に残っている障壁を1つ特定し、それを消す設計変更を行うことが、広告費の費用対効果を改善する上で遠回りに見えて最短の道です。コンテンツ構成や情報の順番、オファーの可視化が購買判断に直結しており、デザインの見た目より先に確認すべき要素です。
今夜、資料を閉じる前に。「自社のページで、食品をネットで買わない理由がいくつ残っているか」を一つだけ書き出してみてください。その一つが、明日の打ち手になります。
参考資料
- 経済産業省『令和6年度 電子商取引に関する市場調査』(2025年公表)
- 消費者庁『特定商取引法ガイド』
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